今日は大事な兄さんの誕生日。僕達が体を取り戻して、旅を終わらせてから初めての
だから僕は兄さんにお願いしていた。今日は早く帰ってきてね、と
果たして兄さんは約束通り、ちゃんと早く帰ってきた
…両手に沢山の荷物を抱えて
birthday party
「兄さん、おかえ…」
「おう、アル。ただいまー」
兄の帰還に気付いて玄関のドアを開けて出迎えた僕に、兄はいつものように声をかけた
でも僕はそれどころじゃなかった。お帰りの挨拶だって途切れたままだ。兄はそれにも気付かない
「なあ、アル。悪いけどこれ少し持ってくれないか?」
「…良いけど」
兄さんに頼まれて、僕は積み上げられた箱のいくつかと、今にも落ちそうに兄の脇に抱えられた花束とを受け取った
「兄さん、これ、どうしたの」
本当は大体の検討がついているのだけど。聞かずにはいられない
「ああ、何か知らないけど、今日軍の連中に貰ったんだよ。よく俺の誕生日なんて知ってるよな。
無能とかリザさんとかはともかくさー、顔も知らないヤツも結構いたんだよな」
そんな兄の言葉に、思わず僕の手に力が籠もる。花束がグシャリと音を立てた気もするけど気にしない
「お返しなんてしねーぞ、って言っても構わないからって言うし、取り合えず貰っといた」
なんて平然と言う兄に、僕は大きな溜め息をついた。鈍感にも程があるよ、兄さん
居間の大きなソファの上に、それらのプレゼントを無造作に放り投げて、僕は兄さんに詰め寄った
「…知らない人から物を貰っちゃいけませんって習わなかったっけ?」
「お前な、俺は小学校のガキかよ」
「今時小学校の子の方がまだ警戒心があるよ。兄さんは無防備すぎる」
「無防備って何だよ。何に警戒しろって言うんだ」
「…親しくもない人が、何で誕生日のプレゼントなんてくれるのさ。下心があるからに決まってるだろ」
「下心ぉ!?お前、このプレゼントくれた奴らが俺に下心持ってるって言うのか!?そりゃ考えすぎだろ!」
「ああ、もうっ!どうしてくれようかな、この馬鹿兄はっ!!」
あんまりだ。あまりにも自覚が無さ過ぎる。ここまでハッキリ言っても駄目だなんて!
だから僕は向かいのソファに座った兄の元へと無言で近づき、その膝へ登り腰掛けて、
少し驚いた表情の兄へと思いっきり口付けた
最初少し抵抗しかけた兄さんだったが、僕がちろりとその唇を舐めると少し手の力が抜けて
反射的に開いた隙間から舌を差し入れると、逆に縋るように僕のシャツの裾を握りしめる
頬に添えていた右手をそっと耳に運び、柔らかな耳たぶを嬲れば、兄はその感触にもビクリと震えた
合間に洩れる甘い吐息が僕を常に煽り続けて、思ったよりも長いキスになる
やっと解放した時には、兄はくったりと目を瞑り、何度も大きな息をついていた
そんな様子が愛しくて、もっと眺めていたいとは思ったのだけど、今は他に言うべき事がある
口を開きかけた僕に、兄さんはまだ少し脱力したまま唸るように文句を言った
「お前な…、中身はともかく見た目はまだ子供なんだから、そんなキスとかしてくるんじゃねえ」
「何を今更。別に良いでしょ、誰に見られる訳でもなし。体だってすぐに大きくなるよ。
それよりも兄さん、弟の僕だって、兄さんにこんな事したくなるんだよ」
「それがどうしたって言うんだよ…」
「だから他の人が下心持っても不思議じゃないでしょ」
「こんな事俺にしたがるの、お前だけだろ」
「違うよ、兄さんはモテるの。もっと自覚してよね。僕、心配でしょうがないよ」
貴方に誰かが想いを寄せてるだけでも面白くないのに
当の本人がこんなに無防備では、いつか何かありそうで恐い
兄さんの腕っ節が立つのは分かっているんだけど、それとこれとは別の不安だ
そう思っていると、ふいと視線を逸らしてぶっきらぼうに兄が小声で呟いた
「こんな事許すのはお前だけだ」
僕は思わず目をしばたかせた。横を向いた兄の耳から首筋はうっすらと赤くなっていて…
はっきり言って可愛い。凄く可愛い。こんな時々見せる表情と普段とのギャップが兄さんのモテる秘密なんだろう
でも、ここまで可愛い表情を見せてくれるのは、きっと僕の前でだけ
「嬉しいよ、兄さん」
僕はにっこりと微笑んで、目の前の赤くなったままの首筋へと唇を寄せた
その仕草に兄はこれから僕がしようとしている事に思い当たったのだろう。焦りながら僕の肩を離そうとする
「えと、アルフォンスさん?今日は御馳走作ってくれたんだろ?冷めちゃうから早く食べよ、な?」
「料理は温めたらすぐに食べられる物ばかりだから大丈夫。それよりこっちが優先」
「いや、腹も減ったし!俺としては飯が優先なんだけどっ!」
「良いじゃない。兄さんは僕の作った料理を美味しく食べる。僕は兄さんを美味しくいただくって事で。
これも一種の等価交換でしょ?」
「違う!それは屁理屈って言うんだ!!」
「屁理屈も理屈ってね。はいはい、良いから集中して」
尚も抵抗しようとする兄さんを、口付けする事で塞いで沈黙させる事に成功した
大切なお祝いの夜は始まったばかり